福田内閣は11月9日、閣議で辻元清美衆議院議員が提出した「村山内閣総理大臣談話」および「河野官房長官談話」についての認識に関する質問主意書に対する答弁書を承認し、いずれも踏襲することを明らかにした。福田内閣が公式の場で歴史認識を明らかにしたのは内閣発足後初めて。
答弁書は昨年の安倍内閣の答弁内容と変わらないが、「歴史の教訓」のところで、「歴史の事実を謙虚に受け止め、未来に過ち無からしめんとする」とし、安倍内閣の時にはなかったか文言が挿入されている。
福田内閣は「歴史の事実を謙虚に受け止め」としたところに安倍内閣との姿勢の違いが浮き彫りにされている。
以下、質問主意書の質問と答弁を一問一答形式にした。
■福田首相のいわゆる「村山内閣総理大臣談話」および「河野官房長官談話」についての認識に関する質問主意書(2007年10月30日提出)
福田首相のもと新しい内閣が誕生し、首相の所信表明演説でさまざまな政策課題への取組が示された。しかし、福田首相がどのような歴史認識をもち、歴史をめぐる諸課題についてどのように取り組んでいくかに関しては、明確に示されていない。
安倍前首相の一連の慰安婦問題に関する発言などがあったことから、「歴史を歪曲するのではないか」と日本政府に対する懸念や批判の声が国内外から多く向けられた。そうした声は、従軍慰安婦問題に関する米下院決議など、国際的な政治問題へと発展した。
一九九五年八月一五日における村山元首相の「村山内閣総理大臣談話・戦後五〇周年の終戦記念日にあたって」(以下「村山内閣総理大臣談話」)、および一九九三年八月四日における河野元官房長官の「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(以下「河野官房長官談話」)は、過去の戦争をめぐる日本政府の歴史認識と責任について明確に示した公式見解である。福田首相は自民党総裁選において、村山内閣総理大臣談話について「首相が言ったことだから正しいと考える必要がある」と述べ、首相に就任した場合には談話を踏襲する考えを示した。また、靖国神社への参拝についても、首相在任中に行わない旨発言している。
さらに福田首相は、小泉内閣の官房長官として共産党・吉川春子議員の「靖国神社を、軍国主義と侵略戦争推進のために利用した事実はあるか」という質問に対し「そういう利用をしたという部分もあったというように考えていいんではないかと思います。」と答弁している(二〇〇二年七月一六日、参議院内閣委員会)。首相に就任した現在、両談話に対し、福田首相がどのような認識をもち、また今度どのような取組を通じて談話の精神を実現していくかについて明確にすることは大きな意味がある。
従って、以下、質問する。
<質問>
一 《「村山内閣総理大臣談話」》について
1 福田首相は、「村山内閣総理大臣談話」を踏襲するか。
2 「村山内閣総理大臣談話」では「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」とあるが、福田首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げ」るために何をすべきであると考えるか。
3 「村山内閣総理大臣談話」では「現在取り組んでいる戦後処理問題についても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため、私は、ひき続き誠実に対応してまいります。」とあるが、福田首相は同じ姿勢か。そのために、具体的に何をすべきであると考えるか。
4 「村山内閣総理大臣談話」では「唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ、過去に対するつぐないとなり、犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなる」とあるが、福田首相は同じ認識か。そのために、具体的に何をすべきであると考えるか。
<答弁> 一の1から4まで及び6について
政府としての認識については、平成七年八月十五日及び平成十七年八月十五日の内閣総理大臣談話等において示されてきているとおりである。
いずれにせよ、政府としては、唯一の被爆国である我が国としての体験及び戦後六十年の歩み等を踏まえ、今後も、世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることに変わりはない。
<質問>
5 「歴史の教訓に学び」とする村山内閣総理大臣談話における「歴史の教訓」について、福田首相は、どのような教訓と解しているのか、その内容を具体的に明らかにされたい。
<答弁> 一の5について
お尋ねの「歴史の教訓」については、歴史の事実を謙虚に受け止め、未来に過ち無からしめんとする等の平成七年八月十五日の内閣総理大臣談話に示されているような種々の認識を意味していると考える。
<質問>
6 村山内閣総理大臣談話には、「また、現在取り組んでいる戦後処理問題についても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため、私は、ひき続き誠実に対応してまいります」とあるが、この部分に関しても、福田首相は村山内閣総理大臣談話を踏襲していると理解してよいか。そうであれば、福田首相として現在取り組み、あるいは過去において取り組んだ戦後処理問題について、その内容を具体的に列記して明らかにされたい。
<答弁> 一の1から4まで及び6について
政府としての認識については、平成七年八月十五日及び平成十七年八月十五日の内閣総理大臣談話等において示されてきているとおりである。
いずれにせよ、政府としては、唯一の被爆国である我が国としての体験及び戦後六十年の歩み等を踏まえ、今後も、世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることに変わりはない。
<質問>
7 首相在任中には靖国神社参拝を行わないという発言について、福田首相はいまも同じ認識か。そうであれば、首相在任中に参拝を行わない理由は何か。
<答弁> 一の7について
御指摘の「首相在任中には靖国神社参拝を行わないという発言」が何を示すのか必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、お尋ねは、福田内閣総理大臣個人の認識に関するものであり、政府としてお答えすることは困難である。
<質問>
8 小泉元首相が首相在任中に靖国神社参拝を行ったことについて、国際社会との関係でどのような影響を与えたと、福田首相は認識しているか。
<答弁> 一の8について
小泉内閣総理大臣(当時)は、不戦の誓いを込めて、一人の国民として靖国神社に参拝したものであると理解しており、このような小泉内閣総理大臣(当時)の考えについては、諸外国に対して説明を行った。
いずれにせよ、政府としては、戦後六十年の歩みを踏まえ、今後も世界の平和と繁栄に貢献していく決意であることに変わりはない。
<質問>
9 福田首相は、二〇〇二年七月一六日参議院内閣委員会での答弁について、いまも同じ認識か。また、日本政府が行った「侵略戦争」について、誰が、誰に対して、どのような侵略行為を行ったという認識か。具体的に示されたい。
<答弁> 一の9について
御指摘の「答弁」が何を指すのか必ずしも明らかでないが、お尋ねについては、様々な議論があることもあり、政府として、具体的に断定することは適当でないと考えており、また、先の大戦に関する政府としての認識は、平成七年八月十五日及び平成十七年八月十五日の内閣総理大臣談話等において示されてきているとおりである。
<質問>
10 小泉元首相は、民主党・岡田克也議員の「A級戦犯については、重大な戦争犯罪を犯した人たちであるという認識か」という質問に対し、「(A級戦犯は)戦争犯罪人であるという認識をしている」と答弁している(二〇〇五年六月二日、衆議院予算委員会)。福田首相は、A級戦犯は「重大な戦争犯罪を犯した人たち」であり「戦争犯罪人」であるという認識か。
<答弁> 一の10について
極東国際軍事裁判所において被告人が極東国際軍事裁判所条例第五条第二項(a)に規定する平和に対する罪等を犯したとして有罪判決を受けたことは事実である。我が国としては、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)第十一条により、極東国際軍事裁判所の裁判を受諾している。
<質問>
11 安倍前首相は「(A級戦犯について)そもそも日本においては、いわば国内法的に犯罪者ではないということははっきりしているわけであります。」(二〇〇六年一〇月六日、衆議院予算委員会)と答弁している。福田首相も同じ認識か。
<答弁> 一の11について
極東国際軍事裁判所において被告人が極東国際軍事裁判所条例第五条第二項(a)に規定する平和に対する罪等を犯したとして有罪判決を受けたことは事実である。我が国としては、日本国との平和条約第十一条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しているが、極東国際軍事裁判所が科した刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない。
<質問>
二 《「河野官房長官談話」》について
1 福田首相は、「河野官房長官談話」を踏襲するか。
2 「河野官房長官談話」では「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」とあるが、福田首相は同じ認識か。
3 「河野官房長官談話」では「戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。」とあるが、福田首相は同じ認識か。
4 「河野官房長官談話」では「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」とあるが、福田首相は同じ認識か。
5 「河野官房長官談話」では「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」とあるが、福田首相は同じ姿勢か。
6 「河野官房長官談話」では「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明」とあるが、福田首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」るために、何をすべきであると考えるか。
7 福田首相は、教科書で「慰安婦問題」についてとりあげ、次の世代に伝えていくべきと考えるか。
<答弁> 二の1から7までについて
お尋ねについて、政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話の
とおりである。
当該談話の趣旨は、このような問題を長く記憶にとどめ繰り返さないという決意を表明したものであるが、特に具体的な研究や教育を念頭に置いたものではない。
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