公文書管理法制定へ学会が講演会(2008年4月30日)

 公文書管理法の制定に向けて政府の有識者会議が発足し、来年の通常国会への提出がスケジュールにのぼっている今日、これまで記録管理にかかわってきた諸団体が文書管理の重要性を訴える講演会を開催している。

 日本アーカイブズ学会(会長 高埜利彦・学習院大学教授)は4月19日と20日にかけて学習院大学で大会を開催、アジア歴史資料センターの石井米雄センター長が「歴史研究とアーカイブ」のテーマで記念講演を行なった。

 石井氏はタイの歴史研究のためにタイ国立公文書館を利用した経験から中央で整理された文書だけでは歴史は分からない、地方文書も含めて研究をしないと全体像をつかめないと文書保存の意義を説明した。そして日本のアーカイブを考える視点として起案段階の文書を保存しておかないとどのような議論が行なわれたのか分からないと述べ、国民への説明責任を果たすために政策決定過程の文書保存が大事であると指摘した。

 一方、記録管理学会(小谷允志会長)は4月23日、公文書管理有識者会議の宇賀克也東京大学教授を招き、文書管理法の在り方について都内で講演会を行なった。

 宇賀教授は文書管理法が必要か否かの議論ではなく、文書管理法を制定することを前提にどのようなシステムを構築するかが問われている段階であるとして、情報公開法などの関連法の改正や文書管理の「司令塔」機能の在り方など法体系全体に踏み込んだ議論を展開した。

 記録管理学会は6月13日と14日に大会を開催し、公文書管理の在り方等に関する有識者会議座長の尾崎護・矢崎科学技術振興記念財団理事長の特別講演を予定している。

日本アーカイブズ学会
http://www.jsas.info/

記録管理学会
http://wwwsoc.nii.ac.jp/rmsj/



村松教授、文書の発生段階から分類整理を(2008年4月28日)

 公文書管理の在り方を検討している有識者会議(座長 尾崎 護・矢崎科学技術振興記念財団理事長)は4月28日、第4回の会合を開催し、行政学の村松岐夫(むらまつ・みちお)学習院大学教授からヒアリングを行なった。

 村松教授は公文書が国民の財産であり、その保存の目的は第一に国の歴史を残すこと、第二に国民の利益を守ることにあると指摘、公文書館は国立の機関でなくてはならず、公文書保存に当たっては第三者の関与が不可欠であると述べた。
 特に公文書は発生段階から直ちに分類整理しないと散逸してしまうとして行政文書のアーキビスト要請が必要だと強調した。
 最後に日本の歴史を書くのに外国の資料を利用するのは不本意、日本の資料を利用したいと締めくくった。
 
 ヒアリング終了後、事務局を担当している内閣官房公文書管理検討室の山崎室長より中間報告をまとめるための論点項目の説明があり、質疑が行なわれた。 論点項目では文書管理法の目的として国民主権、説明責任、国家活動の三点が項目として取り上げられていたが、有識者が指摘していた国民の財産としての公文書という肝心な視点が欠落していた。

 このほか国立公文書館の菊池館長から韓国で新設されたナラ記録館の説明があり、記録管理先進国として整備している状況が報告された。これを受けて尾崎座長からは来年度予算の概算要求に間に合うように国立公文書館の規模や施設なども6月末頃に行なう中間報告に盛り込みたい旨の意向が示された。

 次回5月15日に予定している第5回会合では各省の文書管理状況調査報告と神奈川県公文書館の中間書庫についてヒアリングを行なう。
 
(問い合わせ先)
内閣官房公文書管理検討室 佐々木、梅本
TEL:03−3581−4718
FAX:03−5512−2914
Mail:masatake.umemoto@cao.go.jp

公文書管理の在り方等に関する有識者会議
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/index.html

韓国国家記録院(日本語)
http://japan.archives.go.kr/



文書管理有識者会議が高橋、宇賀両氏から意見聴取(2008年4月9日)


●「意思形成過程の文書保存が将来世代への説明責任」−高橋氏
●「現用・非現用を包括した文書管理が国際標準」−宇賀氏
●「国民や職員に共感が得られる文書管理を」−上川担当相

 公文書管理の在り方を検討している有識者会議(尾崎 護・座長)は4月9日、有識者会議のメンバーでもある高橋滋氏(一橋大学大学院法学研究科教授)と宇賀克也氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)の両氏から意見聴取を行なった。
 
●「意思形成過程の文書保存が将来世代への説明責任」−高橋氏

 高橋氏は「公文書管理研究会」の座長として法案要綱の論点整理を進めてきた経験から、情報公開法などの現行法から一歩踏み出し、独自の公文書管理法の制定が必要との観点から意見を述べた。

 第1に「将来の国民に対する説明責任」を果たすため、意思形成過程の文書を保存することが重要なポイント。情報公開法では現用文書は「組織的に用いられている文書」となっていて「決済文書」は公開・保存されるが決済に至らない文書やメモは失われている。意思形成過程において採用されなくなった文書も含めて保存し、公開することが将来世代への説明責任になる。
 
 第2は行政機関の文書の作成や保管を評価・監視する権限を法制度として公文書担当官庁に付与することが必要。各府省における意思形成過程の文書作成を法定化し、意思決定後も恣意的に廃棄されないよう移送、移管義務を明文化することが必要で、国立公文書館へ移管する前に中間書庫へ移送できるよう法的に明確にするべきである。

 第3は公文書担当官庁は現用文書と歴史的文書の両方を監督する権限を有することが望ましく、国立公文書館は国の機関とし、公文書担当官庁が所管することが必要。また行政機関には専門職を配置することとし、各府省の職員は公文書担当官庁が行なう研修を受ける義務があることを明記するべきだ。


●「現用・非現用を包括した文書管理が国際標準」−宇賀氏

 宇賀氏は文書管理法の目的は公務員の執務の便宜上の文書管理から国民に対する説明責任としての共有財産への変化に対応するため、意思決定過程の正確な記録を確保する観点から意見を述べた。

 第1に非現用の公文書は行政文書に限らず、立法機関、司法機関の保有する文書も国立公文書館等に移管する事となっているが実際にはそうなっていない。今後は独立行政法人などの法人文書や民間文書の収集が行なえるように法改正すべき。私蔵されている公文書へアクセスするため相続税対策なども行なう必要がある。

 第2に公務員に文書作成義務はあるものの「処理に係る事案が軽微なものを除き」となっているので重要な行政文書が作成されない可能性が残る。したがって文書作成義務に関する規定をできる限り具体的にすることが必要。また保管と廃棄、移管の過程で紛失や不適切な廃棄を防止するために「半現用文書」を移管する中間書庫を設置するとともに現用文書を管理する総括管理機関を設け、機関の長に廃棄権限を付与することが考えられる。

 第3に現在の現用と非現用に分離されている文書管理から、現用段階から歴史的文書の保存を念頭に置いた記録保存型文書管理への改革が求められている。国際標準となっている現用・非現用を包括した文書管理(オムニバス方式)の「司令塔」機能は内閣総理大臣を総括管理機関とする分担管理事務の方式を採用するか、国立公文書館を内閣府の外局として文書管理全般を扱う機能を付与して政策庁へと衣替えするか、内閣総理大臣を総括管理機関としての権限の一部を公文書管理庁長官に委任するなどの方策が考えられる。


●「国民や職員に共感が得られる文書管理を」−上川担当相

 質疑では公務員になるために文書管理教育など3年間の研修を受けなくてはならないドイツの例が話題になった。 最後に上川陽子担当大臣は文書管理を国民や職員に共感が得られるようにしていくことが課題であると締めくくった。

 次回第4回会合は4月28日(月)午後5時から 行政学の村松岐夫(むらまつ・みちお)学習院大学教授からヒアリングを行なう。

★公文書管理の在り方等に関する有識者会議
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/index.html