有識者会議の皆様へ

公文書管理の在り方等に関する有識者会議中間報告に対する意見
2008年7月30日
川村一之

公文書管理の在り方等に関する有識者会議(以下 有識者会議)の中間報告「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」〜 今、国家事業として取り組む 〜 が2008年7月1日に提出されました。公文書管理に関心があり、有識者会議を傍聴していた者として中間報告に意見を申し上げます。

《要旨》

1) 中間報告の評価
・第一に公文書は国民の共有財産であること、第二に公文書の作成・保存は現在及び将来の国民への説明責任を果たすためにあること、第三に国の正確な記録としての公文書への国民のアクセスを確保することは民主主義の根幹であることを報告に盛り込まれたことの意義は大きい。このことを法律の条文に明記していただきたい。

2) 公文書管理担当機関の在り方について
・現用・非現用を問わず立法・行政・司法を含めた国の機関で作成する公文書を一元的に管理する機関を想定するのであれば、米国のNARAを参考に内閣から独立した行政機関として記録管理院(仮称)を創設していただきたい。
・国立公文書館を記録管理院(仮称)のアーカイブ部門に位置づけ、国立国会図書館の支部図書館制度を参考に支部公文書館制度を採用し、外務省外交史料館などを支部公文書館として位置づけることを提案したい。

3) 中間書庫について
・中間書庫は各府省庁共通の書庫にするのではなく、各府省庁に設置し、各府省庁の文書作成の指導助言と現用文書の記録管理を行う出張所的な機能とアーカイブ部門への移管を円滑化する機能を併せ持つ組織として位置づけることを提案したい。

4) 情報公開法との調整
・保存期間が満了した行政文書は国立公文書館に移管することを原則とし、情報公開法は公文書館側に適用されてしかるべきであるが、不開示情報の解除に関して各府省庁と国立公文書館で協議制度を設ける必要がある。また国立公文書館の不開示に対して異議申し立てを審査する情報公開審査会と同等の制度を確保する必要がある。

5) 罰則規定の法文化
・公文書は国民の共有財産であるという基本的な認識があれば意図的に公文書の作成を怠った者や公文書の改ざん、廃棄などを行った者に対して罰則を貸す必要がある。

6) その他
・実務者からヒアリング、地方自治体の条例化と公文書館の設置、民間文書の収集、総理大臣記録の管理など

7) 結論
・日本の将来を考え、この機会に公文書管理の最も望ましいかたち、すなわち立法・行政・司法を含む現用・非現用文書を一元的に管理する制度設計を提言として最終報告に盛り込むことを有識者会議に要望する。

以上

・戦争被害調査会法を実現する市民会議 事務局長
・元東京都新宿区議会議員

《本文》
公文書管理の在り方等に関する有識者会議中間報告に対する意見
2008年7月30日
川村一之
1) 中間報告の評価
 
 中間報告は公文書の作成から保存・廃棄までを一元管理する公文書管理制度の創設を提言するものであり、年金記録の紛失や肝炎患者リストの放置、自衛艦航泊日誌の誤廃棄などが続いただけに大変喜ばしいことです。政府も報告に沿って来年の通常国会に公文書管理法(仮称)を提出する方針を固めたとされ、国民の一人として公文書管理制度の早期確立を望むものであります。

中間報告で重要なのは公文書を国民の共有財産であるとし、公文書の保存は将来の国民への説明責任を果たすために必要不可欠とした点です。そして、国の正確な記録としての公文書を国民が自由にアクセスし、主権を行使することは民主主義の根幹と位置づけたところにあります。

したがって公文書管理の法案化にあたっては、第一に公文書は国民の共有財産であること、第二に公文書の作成・保存は現在及び将来の国民への説明責任を果たすためにあること、第三に国の正確な記録としての公文書への国民のアクセスを確保することは民主主義の根幹であることを法律の条文において明記していただきたいと思います。

例として下記に第1条の目的に「市政運営に関する情報は市民の財産である」と記している 大阪市公文書管理条例(制定 平1 8 . 3 . 3 1 条例1 5)を挙げておきます。

○大阪市公文書管理条例
(目的)
第1 条 この条例は、市政運営に関する情報は市民の財産であるという基本的認識の下、公文書の管理責任を明確にし、公文書の作成、保存等に関する基本的な事項を定めることにより、公文書の適正な管理を図り、もって市政運営に対する市民の信頼の確保を図ることを目的とする。

2) 公文書管理担当機関の在り方について

野口貴公美・中央大学准教授によると米国のNARA(The National Archives and Records Administration 米国国立公文書記録管理院)は行政府の記録は勿論のこと、連邦記録法(The Federal Records Act of 1950)で定義された立法府・司法府を含めた連邦政府記録を管理しているということです。

用語についてですが、米国のNARAで管理しているのは「文書」(document)ではなく「記録」(Records)だということです。記録管理学会の小谷允志会長によればISO15489(記録管理の国際標準)で「文書」(document)と「記録」(Records)の定義がなされており、記録された情報・対象を「文書」と定義し、法的な義務を伴って作成・取得されている「文書」を「記録」と定義されているとのことです。日本の「公文書」は「記録」(Records)と読み変えて間違いはないと思われますが、用語については検討を要すると思います。
これからは国際標準にしたがって「公文書」を「記録」と呼ぶことにしたいものです。

さて現用・非現用を問わず立法・行政・司法を含めた国の機関で作成する公文書を一元的に管理する機関を想定するのであれば、米国のNARAと同等の機関として記録管理院(仮称)を創設する必要があります。

日本においては行政府の現用文書は総務省、非現用文書は内閣府及び独立行政法人国立公文書館、外務省外交史料館、宮内庁書陵部、防衛省防衛研究所図書館史料室と分かれている現状があります。
ただし、独立行政法人国立公文書館は「国の機関の保管に係る歴史資料として重要な公文書等」を保存することになっており、法的には立法及び司法の非現用の公文書を受け入れることができますが現実には機能していない面があります。

組織として参考になるのは国の収入支出の決算を検査する会計検査院の制度です。会計検査院は内閣から独立した行政機関として位置づけられ、日本国憲法第九十条に会計検査院が国の収入支出の決算を検査し、内閣は次年度に決算と検査報告を国会に提出することを義務づけています。

もう一つは国家公務員法によって公務員の人事管理の中立公正性を確保するために設置されている人事院制度です。人事院は内閣の所轄の下、内閣から独立性を有する行政委員会として位置づけられ、公務員の人事管理に関する中立第三者機関・専門機関とされています。

中間報告では文書管理に関する事務を内閣府に一元化するとしていますが、立法・行政・司法を含む国の機関の公文書管理を指導監督できる機関を想定するのであれば、会計検査院や人事院の制度を参考に記録管理院(仮称)を設置することが望ましいと考えられます。

米国のNARA長官の記録管理権限(立法・行政・司法を含む現用・非現用文書の管理権限)を考慮するのであれば、会計検査院では国会の衆・参両議院の同意を経て、内閣が任命し天皇が認証することになっている3人の検査官から互選され、内閣が任命する院長が、また人事院であればやはり国会の同意を経て内閣により任命され、天皇により認証される3人の人事官から選ばれる総裁を参考にして記録管理院(仮称)の院長または総裁にNARA長官同等の任務と権限が与えられてしかるべきであると考えます。

しかし行政文書に限るのであれば、各府省庁の現用文書と非現用文書を包括的に取扱うことのできる政策庁として、内閣府の外局に記録管理庁(仮称)を設置することが考えられます。
記録管理庁(仮称)であれば内閣府の長としての内閣総理大臣の下、担当大臣(記録管理庁長官)に行政文書に関する米国のNARA長官と同等の任務と権限が与えられてしかるべきであります。

また、独立行政法人国立公文書館の位置づけについてですが、現在も国の公文書を保存管理している機関として外務省外交史料館、宮内庁書陵部、防衛省防衛研究所図書館史料室があります。省庁の公文書保存機関が国の組織であり、国立公文書館だけが独立行政法人になっているのでは整合性がありません。

公文書管理を現用・非現用と分けることなくシームレスに管理するには国立公文書館を記録管理院(もしくは記録管理庁)のアーカイブ部門として位置づけ、国の組織に戻すべきではないでしょうか。そして国立公文書館を主に外務省外交史料館を国立公文書館支部外務省公文書館などと位置づけなおすことが必要だと思うのであります。

これには国立国会図書館の制度が参考になると思います。国立国会図書館は「国立国会図書館法」と「国立国会図書館法の規定により行政各部門に置かれる支部図書館及びその職員に関する法律」で、会計検査院に国立国会図書館支部会計検査院図書館を置いているのを始め、各府省庁に置かれた25の図書館が国会図書館の支部になっています。

国立公文書館を国の組織とし、現にある外務省外交史料館、宮内庁書陵部、防衛省防衛研究所図書館史料室を支部公文書館とすれば、立法府や司法府においても、例えば国立公文書館支部衆議院公文書館を設置することも可能になるのではないかと考えます。

国立公文書館をこのように位置づければ中間報告にいう「特別な法人」に改組する必要はないと思うのです。
ただ、アジア歴史資料センターについては資料提供機関の増加(国立国会図書館や地方公共団体、大学機関など)を想定し、独立行政法人として残すこともあり得るのではないかと考えます。

3) 中間書庫について

ここでは行政機関の公文書に関して一連のサイクルをどのように管理するかを考えます。
したがって記録管理院(仮称)や記録管理庁(仮称)の名称を使わず記録管理機関(=公文書管理担当機関)と称することにします。

記録管理機関で現用・非現用の行政文書を統一的に管理するのであれば、各府省庁の文書作成や文書管理を指導援助する記録管理の専門職、レコードマネージャーやアーキビストの資格を有する記録管理官(仮称)が各府省庁の文書担当者を指導援助できる体制をつくることが望まれます。
記録管理官(仮称)の養成については外務専門職としての外交官の制度が参考になると思われます。

次に作成された行政文書が公文書館へ移管される過程として中間書庫の役割を考えます。

中間書庫は現用文書で保存期間が満了することなく一定の期間が過ぎた行政文書、「半現用文書」を集中管理するシステムとして機能させる制度であると考えられます。
中間書庫は各府省庁共通の書庫にするのではなく、各府省庁に設置し、記録管理官(仮称)を配置し、各府省庁の文書作成の指導助言と現用文書の記録管理を円滑化する記録管理機関の出張所的な機能とアーカイブ部門への移管を円滑化する機能を併せ持つ組織として位置づけることに意味があるのではないかと思います。
なぜならば中間書庫を各府省庁共通にすると文書が膨大となり、府省庁の近くに立地することが困難になると思われるからです。
むしろ各府省庁に中間書庫を配置し、記録管理機関の事務所と兼用することによって細かく文書管理の指導助言を行うことが出来ると考えます。
そして「レコード・スケジュール」を定めて、そのスケジュールに沿って中間書庫(記録管理機関の出張所)に移送した現用文書を保管すると共に評価・選別を行い、保存期間満了時に各府省庁共通の集中書庫に引き渡し、保存・廃棄の選別を行って国立公文書館(又は支部公文書館)に移管するシステムが考えられます。

中間報告では「中間書庫」と「集中書庫」との関係、及び集中管理の権限が各府省庁なのか公文書管理担当機関なのか未分化な印象を受けます。
公文書管理を一元化するのであれば文書の保存・廃棄等の権限は記録管理機関の長に属するものであることを明確にする必要があります。

4) 情報公開法との調整

公文書管理を一元化するのであれば情報公開法との整合性を確保しておくことも重要なテーマとなります。
第一には記録の定義と作成・保存義務を記録管理法(=公文書管理法)において条文化し、国民への説明責任を真っ当できるように政策決定過程における論議がわかるメモ類なども保管する義務を負うように規定しておく必要があります。例として下記に最高裁の「捜査メモ、すべて開示対象」とした判決を挙げておきます。
第二に情報公開法の「不開示情報」については記録管理機関のアーカイブ部門に適用されてしかるべきであると思います。保存期間が満了した行政文書は公文書館に移管することを原則とし、開示・不開示とは別次元で検討する必要があると思います。しかし言うまでもなく不開示情報の機密解除に関して各府省庁と記録管理機関の協議制度を設け、年限の経過を考慮に入れた情報開示を行わなければならないと考えます。
第三に情報公開法の不開示に対する不服申立てが行えるように国立公文書館の不開示に対して異議申し立てを審査する情報公開審査会と同等の制度を確保する必要があると思います。
第四に記録管理法の制定と同時に立法・司法の情報公開制度の整備を行う必要があると思います。

○捜査メモ、すべて開示対象=取り調べ時以外も−最高裁
 (2008/06/27-17:19) 時事通信
 警察官が捜査時に作成したメモの開示義務が争われた裁判で、最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)は27日までに、取り調べ時に限らず、すべての捜査過程で作成されたメモについて、証拠開示の対象になるとの初判断を示した。その上で、検察側の特別抗告棄却を決定、証拠収集の経緯などが書かれたメモの開示命令が確定した。決定は25日付。
最高裁は昨年12月の決定で、警察官による取り調べ時のメモは開示対象になると判断したが、今回は対象を捜査全般に広げる内容。警察捜査の実務に影響しそうだ。

○最高裁判例
事件番号 平成20(し)159 / 事件名 証拠開示決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件 / 裁判年月日 平成20年06月25日 / 法廷名 最高裁判所第三小法廷 / 裁判種別 決定 / 結果 棄却
裁判要旨
1 犯罪捜査に当たった警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,捜査の経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該捜査状況に関する証拠調べが行われる場合,証拠開示の対象となり得る
2 警察官が捜査の過程で作成し保管するメモが証拠開示命令の対象となるか否かの判断は,裁判所が行うべきであり,裁判所は,その判断のため必要があるときは,検察官に対し,同メモの提示を命ずることができる
3 警察官が捜査の過程で作成し保管するメモの提示命令に検察官が応じなかった場合に,同メモの開示を命じたことは違法ということはできない

5) 罰則規定の法文化

中間報告では監視機能の強化が記述されていますが、それだけでは不十分です。やはり、公文書は国民の共有財産であるという基本的な認識があれば意図的に公文書の作成を怠った者や公文書の改ざん、廃棄などを行った者に対して罰則を貸すのは当然のことではないでしょうか。有識者会議で更に煮詰めていただきたいと思います。

6) その他

@ 有識者会議で最終報告をまとめる前にレコードマネージャーやアーキビストの養成や資格に関して実務者からヒアリングを行う必要があると考えます。
A 地方自治体との関係では行政文書管理規則や規程を記録管理条例(=公文書管理条例)とし、公文書館の設置を促す規定を記録管理法(=公文書管理法)に盛り込むべきであろうと考えます。
B 民間文書の収集においても国立国会図書館の憲政資料室では政治家の私文書などの寄贈を受けていますし、防衛省防衛研究所図書館史料室においても旧軍関係者の日記や回想録などの私文書を受け入れているのであり、国立公文書館においても積極的に受け入れられる制度的な保障を担保すべきであると考えます。
C 鉄道事業などのように国の事業から民間に移行した事業については事業の公共性を考慮し、准公文書的な扱いとして国の公文書館で収集管理できるように取扱う必要があると考えます。
D 米国の大統領記録管理と同じく、総理大臣記録を特別に管理する規定を記録管理法(=公文書管理法)に盛り込む必要があると考えます。

7) 結論

 中間報告に基づいて私なりに公文書管理の在り方について考察を進めてきましたが、基本は国の機関が作成した国民の共有財産としての公文書を信託する機関が公文書管理担当機関であると思います。
そのように考えるとやはり立法・行政・司法の公文書作成を援助し、作成された記録(現用・非現用)の保管・保存・廃棄などを一元的に管理する記録管理院(仮称)を制度化することが一番望ましいかたちだと考えます。
現時点での政治状況・国会状況を考慮すれば記録管理院(仮称)を制度化する記録管理法(仮称)を各政党の理解を得て議員立法で国会に提出し、全会一致で成立することが最も自然であると思います。
仮に政府が提出する閣法を想定すれば立法・司法への遠慮から行政文書を管理することにとどまることになるかもしれません。
もともと公文書館法は議員立法で成立していますし、今回の公文書管理の制度化に当たっては福田総理が官房長官時代に熱心に取り組まれてきました。その後、福田総理自身が与党の公文書館推進議員懇談会を立ち上げて提言を行ってきた経緯があります。
また、超党派の恒久平和のために真相究明法の成立を目指す議員連盟(鳩山由紀夫会長)も公文書管理の必要性を理解し、有識者からヒアリングを重ねてきました。
このように公文書制度の確立を求める動きは与野党を問わず広がっており、行政文書だけでなく立法・司法の公文書まで視野に入れた記録管理法(仮称)が成立する機運は熟していると考えます。
有識者会議に要望することは日本の将来を考え、この機会に公文書管理の最も望ましいかたち、すなわち立法・行政・司法を含む現用・非現用文書を一元的に管理する制度設計を提言として最終報告に盛り込むことが重要であると思います。
そうすれば有識者の皆さんの英知を政府並びに政府与党と野党が垣根を越えて受けとめ、公文書管理制度の確立に努力されることでありましょう。

以上

・戦争被害調査会法を実現する市民会議 事務局長
・元東京都新宿区議会議員