2015年 市民会議ニュース


市民会議ニュース 2015.3.6 NO.160

第189通常国会  安倍首相は談話検討の有識者懇を設置

戦後70年の「安倍談話」に議論集中

〜 首相、歴代談話は「全体として受け継ぐ」 〜


戦後70年の節目の年にあたる第189通常国会は1月26日に召集されました。昨年末の総選挙で大勢は変わらず、第3次安倍内閣が発足。市民会議は召集日に、改めて大戦への反省を背景に成立した日本国憲法を基本にした「憲法政治」の実現を求め、衆参両院全議員に要請しました。
国会の論戦は戦後70年の首相談話、いわゆる「安倍談話」に議論が集中。歴代内閣の談話を踏襲するのか否かが問われました。安倍首相は歴代の談話を「全体として受け継ぐ」としながらも、個々の文言にはこだわらない立場を明らかにしました。今後は村山談話や小泉談話で使用された「植民地支配と侵略」、「痛切な反省」、「心からのお詫び」が踏襲されるかどうかが焦点になりそうです。安倍内閣は談話の検討にあたって西室泰三・日本郵政社長を座長とする有識者懇談会を設置しました。

■「戦後70年談話」に日本の加害責任は書き込まれるのか

安倍首相は「戦後七十年の談話については、さきの大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、今後、日本としてアジア太平洋地域や世界のためにさらにどのような貢献を果たしていくのか、次の八十年、九十年、百年に向けて日本はどのような国になっていくのかについて、世界に発信できるようなものを、英知を結集して新たな談話に書き込んでいく考えであります。」(1月29日 衆院予算委員会)と稲田朋美委員の質問に答えています。また長妻昭委員の質問には「戦争の惨禍を二度と繰り返してはならない」ということが「最大の教訓」とも答えています。答弁で垣間見えるのは、安倍首相には日本の被害に対する認識はあるものの、日本の加害ついては一切語ろうとしない姿勢を貫いていることです。英知を結集した新たな談話がどのようなものになるのか注視していく必要があります。

■「慰安婦」問題の解決は日韓条約調印50年までに可能か

戦後補償裁判に詳しい韓国の崔鳳泰(チェボンテ)弁護士は2月12日、「慰安婦」問題は法治主義に基づいて解決する必要があるという見解を表明しました。現状での一番の問題点は韓国政府が「慰安婦」被害者の意見を反映させていないことだと指摘しました。被害者の意見を取り入れないで韓日間の交渉が進めば、妥結に至っても被害者から拒否される可能性があるということです。また「慰安婦」問題は韓日だけの問題ではなく、少なくとも韓中日3国の外務大臣会合の議題にすべきではないかと述べました。崔弁護士は「日本で種をまいて、韓国で花が咲き、中国で実を結ぶ」と言う表現で一連の認識を示しています。今年の6月22日は日韓基本条約調印50年を迎えます。それまでに「慰安婦」問題で前進があり、日韓首脳会談が行えるのか注目されます。

■戦後70年で国際社会は記念行事

2015年初頭、ナチス・ドイツのホロコーストの舞台となったアウシュビッツ解放70年(1月27日)を皮切りに、国際社会は対独戦争、対日戦争終結70年に向けて様々な行事が予定されています。1月31日にはドイツのヴァイツゼッカー元大統領が亡くなりました。メルケル首相は元大統領への追悼談話で、1945年5月8日は「ナチスによる暴力支配という人間蔑視の体制からの解放の日」であったという終戦40年演説を引用、故人をたたえました。

Contents NO.160
「安倍談話」に議論集中/国会議員要請 「憲法政治」の実現を/予算委、村山談話めぐり質疑/アウシュビッツ解放70年・ヴァイツゼッカー元大統領死去/小説『After Darkness』紹介 山口明子/強制動員研究集会/「慰安婦」制度の歴史/戦後補償裁判/戦後70年談話有識者懇/慰安婦」被害者写真展

第189通常国会で全国会議員に要請    2015年1月26日

〜 戦後70年、「憲法政治」の実現で大戦の反省を 〜


市民会議は第189通常国会が召集された1月26日、戦後70年を迎えて、主権在民、平和主義、国際協調を基本にした憲法政治を実現するよう衆参両院全国会議員に要望しました。そのうえで、先の大戦を反省し、歴史の事実を調査する恒久平和調査局設置法制定の要請を行いました。

【要請文】

国会議員の皆さまへ             2015年1月26日

戦後70年、憲法政治の実現を 〜主権在民・平和主義・国際協調を原点に〜

第47回衆議院議員総選挙で初当選された衆議院議員の皆様
引き続き国政を担われる衆議院議員、参議院議員の皆様
第189回通常国会の開会に当たり、国会議員の皆さまの働きに感謝しつつ、日本国憲法の指し示す主権在民、平和主義、国際協調主義に基づく、本来の憲法政治の実現に努力され、日本とアジア諸国との平和と友好を進め、世界の平和に寄与されるべく特段のご配慮を賜りますようお願い申し上げます。

■大戦への反省で、平和の福利を

第3次安倍内閣が昨年12月24日に発足しました。第189回国会は第3次安倍内閣にとって最初の通常国会であり、戦後70年の節目に当たる重要な国会です。
ここで忘れてはならないのが、自民、公明両党が2年前に交わした連立政権合意です。前文には「決して驕ることなく、真摯な政治を貫くことによって結果を積み重ね、国民の本当の信頼を取り戻さなくてはならない」と書かれています。この言葉は第3次安倍内閣の発足にあたっても引き継がれているものと考えます。
いうまでもなく、国の政治の基本は憲法にあります。日本国憲法の前文には「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」とあります。
すなわち、国会議員の皆様は「憲法を尊重し、擁護する義務」が課せられた「国民の代表者」であり、国民に福利をもたらすことが使命だということです。国民の信頼を取り戻すためには、憲法のもとに国民に福利をもたらす政治を実行することが必要ではないでしょうか。

■国会図書館に「恒久平和調査局」の設置を

戦後70年、平和の福利を享受してきた日本国民は、今後も大戦の反省に立って世界に平和をもたらす責務があると考えます。
私たちは戦争の歴史の事実を公的に調査し、調査で得た歴史の事実を各国で共有することが、アジア諸国の人々との友好親善を深めるための基礎になるだろうと確信しています。国会が超党派で歴史事実を調査する恒久平和調査局を国会図書館に設置し、未来に向けて、東アジアに平和のメッセージを発信するよう期待するものです。

市民会議ニュース 2015.6.25 NO.161 

 第189通常国会は延長  安保法制でも問われる歴史認識

安倍談話は「謝罪なき反省」に後退か

〜 安倍首相、バンドン60年・米議会演説で謝罪なし 〜


安倍内閣は5月14日、集団的自衛権行使を盛り込んだ安保関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。憲法研究者らは安保関連法案を憲法違反と指摘。国会審議は6月24日までに終わらず、9月27日まで約3カ月間大幅に延長されました。市民会議は第189通常国会召集日に、日本国憲法を基本にした「憲法政治」の実現を求めて衆参両院全議員に要請しましたが、立憲政治を否定するかのような安倍内閣の強引な政権運営に批判は高まっています。国会の論戦は当初、戦後70年の首相談話に議論が集中。歴代内閣の談話を踏襲するのか否かが問われました。安倍晋三首相は4月、インドネシアと米国を相次いで訪問。バンドン会議60年首脳会合や米上下両院合同会議で演説を行いましたが、大戦への反省は述べたものの、謝罪の言葉はありませんでした。談話を検討するために設置した有識者懇談会においても「謝罪なき反省」を評価する声があり、戦後70年の首相談話から「植民地支配と侵略」、「心からのお詫び」が省かれることが既成事実化しているといえます。

■問われる安倍首相の「戦後レジーム」脱却

安倍首相が信条としている「戦後レジーム」からの脱却路線は安保関連法案の審議においても問われました。共産党の志位委員長は5月20日の党首討論において、「ポツダム宣言」の評価を訊ねましたが、安倍首相は「つまびらかに承知していない」としか答えられませんでした。過去、政府は「敗戦ノ原因及実相調査ノ件」(1945年11月)を閣議決定し、「大東亜戦争」が「大ナル過誤」と認めています。衆議院が決議した「戦争責任に関する決議」(1945年10月)の提案理由では「我が国の進路がポツダム宣言の忠実なる実行であり、平和にして且つ民主的なる新日本建設にある」と述べているのです。安倍首相は6月1日の民主党の細野政調会長による質問でも、「ポツダム宣言」に異議を唱える立場にはないとしながら、大戦の過ちには言及しませんでした

■「慰安婦」は「人身売買」の犠牲者か

安倍首相は3月27日、米ワシントン・ポスト紙のインタビューに応じて、日本軍「慰安婦」は人身売買の犠牲者だという認識を示しました。訪米中の4月27日にも「人身売買の犠牲となって筆舌に尽くしがたい思いをした方々のことを思うと、今も私は胸が痛い」と話したということです。この「人身売買」発言は「慰安婦」を「性奴隷」として認めたかのような発言ではありますが、民間の問題であって、国の関与はないという責任逃れの発言にも受け取れます。日本の歴史学会は5月25日に声明を発表、たとえ性売買の契約があったとしても、「慰安婦」は植民地支配や差別構造によって人権を蹂躙された性奴隷の状態に置かれていたと安倍首相の認識を批判しました。

■ナチス・ドイツ降伏70年で犠牲者を追悼

ナチス・ドイツが無条件降伏した5月8日、EU諸国は犠牲者を追悼する式典を行ないました。ドイツ連邦議会(下院)ではラマート議長が「8日は終結の日でもあり、始まりの日でもある」と演説、ナチスから解放された日であると強調しました。メルケル首相は2日、政府ホームページで「歴史に終止符はない」と述べ、今後もナチスによる被害に向き合う姿勢を明らかにしています。

Contents NO.161安保法制でも問われる安倍首相の歴史認識/「謝罪なき反省」・「ポツダム宣言」/台湾の「慰安婦」記念館/「私と戦後70年」 加藤健一/原稿募集「私と戦後70年」/「福留範昭さんと私」西川重則/「産業革命遺産と戦時の強制労働」竹内康人/九州大学医学部歴史館オープン/韓国遺族会が日本企業を提訴/第13回「慰安婦」問題アジア連帯会議開催

市民会議ニュース 2015.9.18 NO.162

特集「安倍談話」     ちりばめられた「安倍史観」

安倍談話は「もうお詫びしない」宣言

〜 日露戦争を自慢、戦後生まれに戦争責任はない 〜


安倍晋三首相は8月14日、戦後70年談話を閣議決定し、夕方の記者会見で発表しました。インドネシアのバンドン会議60年首脳会合や米上下両院合同会議での安倍首相の演説に「謝罪」の言葉がなかったことから、談話は、村山談話に盛られた「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「心からのお詫び」の4つのキーワードが入るのか否かが焦点だとされました。発表された談話は4つのキーワードを盛り込みはしましたが、歴代総理の談話とは似ても似つかぬものでした。村山談話では日本の「植民地支配と侵略」に対する「痛切な反省」と「心からのお詫び」が表明されましたが、安倍談話では日本の「植民地支配」と「侵略」は言及せず、「痛切な反省」「心からのお詫び」も過去形で表現しました。その一方で、安倍首相は「歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と述べ、歴代総理の談話を受け継ぐような表現もあり、何を主張したいのかわかりづらい談話になっています。談話には「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」というくだりがあり、ここに安倍首相の本音が現れていると見ることができます。要するに安倍談話とは「もうこれ以上はお詫びしない」宣言だったのです。

意図的に無視された菅談話

安倍首相は常々「歴史の評価は歴史家に任せるべき」と主張していましたが、注意深く見ると「安倍史観」が随所にちりばめられています。問題なのは日露戦争の評価です。安倍談話は2010年の韓国併合100年にあたって出された菅直人総理談話と相反しています。菅談話は韓国併合を韓国の人々の意に反して行われたと指摘し、「国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられた」との認識を表明しました。そして植民地支配への痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明したのち、将来の東アジア共同体の構築を念頭に置いて日韓協力を進めるとしました。安倍談話は日露戦争が韓国を植民地化する過程であったことを捨象し、「東アジア共同体」を消し去ることで菅談話を無視しています。

本音は「英霊」への「お詫び」

安倍談話は戦後生まれに戦争責任はなく、子や孫に「謝罪」させる必要はないと言いたいようです。それは安倍首相自身が「自分には戦争責任がない」と言っていることと同じです。そうすると安倍首相の戦争認識「歴史の教訓」はどこにあるのでしょうか。談話には痛惜の念を表し、哀悼の誠を捧げる対象に「祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々」が挙げられています。安倍首相のいう「歴史の教訓」とは日本の「植民地支配と侵略」への反省とお詫びではなく、端的に言えば、「祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々」へのお詫びであり、日本の国に殉じた「英霊」に対する敗戦責任というものです。

「戦前への回帰」夢見る安倍首相

安倍首相は会見で、談話は「日本が目指すべき国家像」を描くことにあったと述べています。日露戦争での勝利を評価し、「積極的平和主義」の旗を高く掲げて進む先は戦前への回帰を想起させます。政府が公式見解として戦後70年談話を出すなら、歴代談話を踏まえて、憲法を遵守し、日中韓の友好と将来の東アジア共同体を構想する中身のある談話が求められていたと思います。

Contents NO162特集「安倍談話」/安倍談話は「もうお詫びしない」宣言/「安倍談話」をどう読むか 加藤健一&川村一之/談話に対する海外の反応/資料:安倍談話・菅談話/安倍談話と戦後70年 保阪正康/大阪「タチソ」地下壕写真集を刊行

市民会議ニュース 201511.26 NO.163 (2015.11.28更新)

 「安倍談話」その後   ホームページ「歴史問題Q&A」を変更

外務省が「植民地支配と侵略」削除

〜 将来の世代に「謝罪」させないと明記 〜


第189回通常国会は9月27日、戦後最長となる95日間延長の末、安保関連法案を可決・成立し閉会しました。国民の多くが反対したにもかかわらず、国会終盤は与党と一部野党が賛成に回り、参院特別委員会で強行採決が行われ、会議録にも採決結果が記載できないまま終了する事態となりました。
国会が異常事態で推移していた9月18日、外務省は突如、8月14日以来削除していた「歴史問題Q&A」を「安倍談話」にのっとって変更し、ホームページ上に掲載しました。変更された「歴史問題Q&A」からは歴代内閣が踏襲してきた「植民地支配と侵略」が削除されていました。一方、安倍首相が一番述べたかった「謝罪」の不継承は、「戦争とは何ら関わりのない、将来の世代が、謝罪を続けねばならないような状況を作ってはなりません」と明記されました。
「慰安婦」問題については、「多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題である」という認識を残しつつ、「安倍談話」にある一般論的な戦時下の女性の人権擁護を付け加えましたが、「請求権の問題は法的に解決済み」という姿勢を堅持しました。
南京大虐殺については、「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」というこれまでの認識を踏襲しつつ、「植民地支配と侵略」を「先の大戦における行い」という曖昧な言い方に変更しました。
民主党の岡田克也代表は10月2日、「歴史問題Q&A」の変更について「抽象的な今回の談話で村山談話、小泉談話に置き換えたというのであれば、それも非常に問題」だと批判しました。

■外務省の変更は歴史修正主義を助長

防衛研究所の庄司潤一郎戦史研究センター長は「安倍談話」を、国策を誤った時期を明示するとともに、世界史の文脈のなかで「影」の部分のみならず「光」の部分にも言及したとし、両面を客観的に認識する必要があろうと評しています。しかし現実は「謝罪にけじめをつけた安倍談話」(田久保忠衛)として認識され、「侵略戦争史観」批判が展開されています。外務省の「歴史問題Q&A」はそのような歴史修正主義を助長するものだと言わなければなりません。

■「シベリア抑留」と「南京大虐殺」、ユネスコ「世界記憶遺産」に登録

戦後70年は歴史認識の違いを浮き彫りにさせた年でもありました。ユネスコは日本が申請した「シベリア抑留記録」と中国が申請した「南京大虐殺記録」を世界記憶遺産に登録しました。これに対し、日本とロシアは共に相手国の「政治利用」を問題視しました。しかし「世界記憶遺産」は世界の重要な一次記録の保存を目的としており、内容いかんにかかわらず歴史の事実として受け止める必要があるものです。ましてユネスコへの拠出金によって登録を左右することがあってはなりません。

■中国と台湾が「抗日戦争勝利」強調

中国の習近平国家主席は9月3日の戦勝記念日に抗日戦争と反ファシズムの正しい歴史観の堅持を訴えました。また台湾の馬英九総統は10月25日、台湾が解放された「光復節」の演説で、台湾人民の「抗日戦」は台湾が日本に割譲された1895年から始まったとの認識を示しています。それぞれの歴史認識は安倍談話の歴史観との違いを際立たせています。

Contents NO.163
「安倍談話」その後/外務省が「植民地支配と侵略」削除/「私と戦後70年」 西川重則/外務省「歴史問題Q&A 」新旧比較/ユネスコ「世界記憶遺産」登録 小川千代子さんに聞く/「植民地支配と侵略」を理解するために 川村一之 /市民会議2015年期会計報告