市民会議ニュース 2017.11.25 NO.171 (2017.11.25更新)

 ユネスコ「世界の記憶」  日本政府が分担金凍結で登録を阻止
「慰安婦」記録の世界遺産登録見送り
 〜 加盟国の同意を必要とする新基準を前倒し 〜


ユネスコ「世界の記憶」遺産の登録を審査する国際諮問委員会(IAC)は10月30日、フランスのパリで登録勧告リストを発表、日本軍「慰安婦」被害記録は保留とする勧告を行いました。イリーナ・ボコバ事務局長は国際諮問委員会の勧告を承認、日本軍「慰安婦」被害記録の登録は見送りになりました。

■「慰安婦」被害否定派も申請

国際諮問委(IAC)は登録申請されていた「慰安婦の声」(No. 101 “Voices of the ‘Comfort Women’”)と「慰安婦と日本軍の規律」(No. 76 “Documentation on ‘Comfort Women’ and Japanese Army discipline”)の2件の「慰安婦」関連記録に関して、登録申請者と当事者間の対話を行うよう事務局長に勧告し、登録を見送るよう求めました。
2件の「慰安婦」関連記録のうち、「慰安婦の声」は韓国、中国、日本、台湾、フィリピン、インドネシア、オランダ、東ティモールの8カ国・地域の関係14団体が共同で登録申請した2744件の日本軍「慰安婦」被害記録。対する「慰安婦と日本軍の規律」は日本軍「慰安婦」被害記録の登録を阻止することを目的に申請された資料で、「慰安婦制度」は「強制連行」や「性奴隷」ではなく、軍専用の公娼制度と主張する団体が提出していました。

■「慰安婦の声」日本委員会は政府を批判

日本政府は「慰安婦」被害記録の登録を阻止するべく、「世界の遺産」登録にあたっては加盟国の同意を必要とする新基準の前倒し適用を求め、ユネスコ分担金約34億8000万円の拠出を凍結するなどの圧力をかけました。ユネスコは10月18日、執行理事会を開催、日本政府の意向を受け入れ、関係当事者間で意見の相違がある場合は登録を保留するという新基準の制度変更案を満場一致で採択しました。しかし新制度は2019年の申請分から適用するとされたため、本来は今回の登録申請分には適用されないはずでした。27日になって、「慰安婦」関連記録は関係国の対話が必要な案件だとして「登録を見送る公算が大」という報道がなされました。26日に行われた非公開会議で決定されたという報道です。
この報道を受けて、ユネスコ記憶遺産共同登録日本委員会は27日、「日本政府が強く反対し、分担金支払いの停止という常軌を逸した強い措置をとってまで、ルールを変更するよう圧力をかけてきたこと」を指摘し、「ユネスコが圧力に屈し、私たちの申請を除外したとすれば、手続き上もきわめて異常な事態であり、遺憾の意を表する」とのコメントを発表しました。

■イスラエルと米国がユネスコ脱退

「世界の記憶」とは別に、今年7月に世界危機遺産登録されたパレスチナ自治区の「ヘブロン旧市街」をめぐってイスラエルが反発、米国も同調し、両国は10月12日、来年の2018年末にユネスコを脱退すると通告しました。
このようなぎくしゃくした関係は日本の「産業革命遺産」でも起きており、朝鮮人強制労働などの記述を明記しない日本の姿勢に韓国などは反発しています。また昨年は中国が申請した「南京大虐殺」記録の「世界の記憶」への登録に対して日本政府が反発、新基準への制度変更をもたらした経緯があります。

■原爆ドームでは米国と中国が反対

1996年に世界遺産に登録された広島の平和記念碑(原爆ドーム)については米国が戦争施設の世界遺産化に反対、中国も日本の加害に言及し、両国ともに審議を棄権した経緯があります。世界遺産登録が決まって、広島市の平岡敬市長は人間の過ちをみつめるのは人類の進歩であり、日本の加害を認識せよという警告は真摯に受け止めるという談話を発表しています。

Contents NO.171
「慰安婦」被害記録の登録見送り/第195特別国会で全国会議員に要請/南京事件の今後の課題 西川重則/府中市「日中戦争を考える会」を発足して 加藤健一/石井部隊を告発した最初の中国側文献の邦訳/「慰安婦」問題に関する韓国国家人権委員会委員長の声明/市民会議会計報告


第195特別国会で全国会議員に要請  2017年11月1日 (2017.11.4更新)


国会は不戦の決意を! 
〜 そして今こそ、憲法前文の想起を 〜


第195回国会(特別会)が召集された11月1日、市民会議は北東アジアの緊張が増している今日、国会は改めて不戦の決意をしめすよう衆参両議院の全国会議員に要請しました。

衆議院は9月28日に解散され、10月22日に第48回衆議院議員総選挙が行われたため、初当選した衆議院議員も多く、これまで衆議院が行った決議を列挙し、先人の過ちと反省、自戒を学び、不戦の決意を示していただきたいと要請しました。また、首班指名選挙にあたっては、日本国憲法前文にある「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」の文言を想起し、憲法前文にふさわしい総理を選出するよう求めました。


【要請文】

国会議員の皆さまへ             2017111

国会は不戦の決意を!
〜 そして今こそ、憲法前文の想起を 〜

第195回国会(特別)の開会にあたり、衆参両議院の国会議員の皆様に訴えます。第48回衆議院議員総選挙で当選された皆様、ご当選おめでとうございます。北東アジアの緊張が増している今日、日本国憲法の前文を想起し、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」、本来の憲法政治の実現に努力されることを望むものです。

■日中全面戦争勃発から80年

今年は日中戦争勃発の原因となった盧溝橋事件から80年という節目の年を迎えています。衆議院はこれまで、「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」(1995年6月9日 第132回国会)、 「戦争決別宣言決議」(2000年5月30日 第147回国会)、「国連創設及びわが国の終戦・被爆60周年に当たり、更なる国際平和の構築への貢献を誓約する決議」(2005年8月2日 第162回国会)の3回の決議を可決し、かつての戦争を反省し、不戦の決意を示してきました。

しかしかつては、「大東亜戦争目的貫徹ニ関スル決議」(1941年12月17日 第78回帝国議会)を満場一致で可決したこともありました。戦後間もなくの1945年12月1日には「戦争責任に関する決議」(第89回帝国議会)を可決し、戦争の責任は軍閥官僚にあるが、国民を戦争に駆り立てた政界や財界、思想界にもあるとし、過去を反省し、深く自戒するとの決意を示しています。

国会議員の皆様におかれては、先人の過ちと反省、自戒を学び、不戦の決意を示していただきたいと切にお願いする次第です。 

■「恒久平和調査局」を国会図書館に

安倍晋三総理は敗戦から72年目の8月15日、政府主催戦没者追悼式に於いて、「戦争の惨禍を、二度と、繰り返してはならない」と決意を語りました。総理が述べた「戦争の惨禍を繰り返してはならない」のくだりは、憲法前文では「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と書かれています。この「政府の行為によつて」の文言は実に重いものです。総理を指名するのは国会であるからです。読みかえるならば、国会議員の皆さんが「再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」しなければならないということです。その決意を裏付けているのが国会図書館にほかなりません。国立国会図書館法は前文で「憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」と謳っています。国会議員の皆様におかれては、国立国会図書館の使命を再認識し、かつての戦争被害を公的に調査する恒久平和調査局を国会図書館に設置して世界平和に寄与されるよう要望いたします。

第194臨時国会で全国会議員に要請  2017年9月28日 (2017.10.1更新)

「国難突破」は戦争への道 〜 今こそ、憲法前文の想起を 〜

第194臨時国会が召集された9月28日、市民会議は衆議院本会議で解散される前に、衆参両院全国会議員に冒頭解散ではなく懸案の課題を国会で討論をするよう要請しました。
また、安倍晋三総理が名付けた「国難突破解散」はかつての戦争への道を彷彿させるものであり、今こそ、日本国憲法前文にある「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」の文言を想起するよう求めました。



【要請文】

国会議員の皆さまへ             2017年9月28日

「国難突破」は戦争への道 〜 今こそ、憲法前文の想起を 〜

第194回国会(臨時)の開会に当たり、冒頭解散ではなく国会で討論を国会議員の皆様に訴えます。北東アジアの緊張が増している今日、日本国憲法の前文を想起し、主権在民・平和主義・国際連帯主義に基づき、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」、本来の憲法政治の実現に努力されることを国会議員の皆様に求めます。

■日中全面戦争勃発から80年

安倍晋三総理は敗戦から72年目の8月15日、政府主催戦没者追悼式に於いて、「戦争の惨禍を、二度と、繰り返してはならない」と決意を語りました。この安倍総理の式辞を2007年の式辞と比べてみると第一にアジア諸国の犠牲者への哀悼が抜けていること、第二に戦争の反省と不戦の誓いが省略されていることに気がつきます。
今年は日中戦争が勃発した盧溝橋事件から80年という節目の年にあたりました。現在でも中国政府は残された戦後処理として「強制連行・強制労働」と「慰安婦」、「遺棄毒ガス(化学)兵器」の3件を戦争遺留問題として日本政府に解決を求めている事実があります。
日本と中国が不幸にも全面戦争になった節目の年にアジア諸国の人々を偲び、かつての侵略戦争への反省を述べるべきではなかったでしょうか。
私たちは中国だけでなく、「慰安婦」問題を始め、アジア諸国に与えた「苦難の歴史」を直視するため、戦争被害の公的調査を求めてきました。戦後72年を迎えた今日においても私たちは「戦争被害の公的調査」にこだわります。

■「恒久平和調査局」を国会図書館に

今年は「日本国憲法施行70年」の年でもありました。安倍総理が述べた「戦争の惨禍を繰り返してはならない」のくだりは、憲法前文では「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と書かれています。この「政府の行為によつて」の文言は実に重いものです。総理を選出するのは国会であるからです。読みかえるならば、国会議員の皆さんが「再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」しなければならないということです。その決意を裏付けているのが国会図書館にほかなりません。国立国会図書館法は前文で「憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」と謳っています。日本国憲法施行70年を迎える今日こそ、国立国会図書館の使命を再認識し、戦争被害を公的に調査する恒久平和調査局を国会図書館に設置していただくよう要望する次第です。

市民会議ニュース 2017.9.18 NO.170  (2017.9.23更新)

盧溝橋事件80年   否定できない侵略・加害の歴史に責任
中国全面侵略戦争80年に当たって


西川 重則 (市民会議共同代表)


【1】

戦後72年の今年2017年、日本国憲法施行(1947年5月3日)から今年は70年になり、記念すべき年と言われている。一方、中国全面侵略戦争開始の1937年7月7日について言えば、丁度80年に当たる。

年表から考えれば、1937年6月1日、第一次近衛文麿内閣が成立し、その直後の7月7日、中国の盧溝橋で日中両軍が衝突し日中戦争が始まると報告されている。

もちろんその直後の7月11日、現地協定が成立している。しかし日本政府は中国の華北の治安維持のため派兵を決定し、いわゆる「支那事変」が始まった。私は中国に毎年のように出かけ、謝罪の旅を続けたが、北京大学その他で講演を依頼されたり、その際近くの盧溝橋に行き、歴史の事実を確認し、歴史認識の共有を期待し、今日に至っている。対中国全面侵略戦争を否定することはできないという私の歴史観は変わらないことを確認しておきたい。

1937年7月7日の歴史をより深く認識するために、この際、中国と日本の戦争の歴史を率直に報告し、対中国侵略・加害の歴史的事実を確認する責任があることを述べておきたい。以下の通りである。

中国と日本の歴史については、たとえば、『新中学校 歴史改訂版 日本の歴史と世界』という書物を清水書院が発行している。同書は「対華二十一条の要求」について述べているが、中国に対する軍事行動をおこし、1915年に中国の袁世凱政府に対して二十一カ条要求をつきつけたことが書かれている(182頁参照)。

その後、1919年5月4日、北京大学の学生が「五・四運動」をおこしたが、私は直接、北京大学の学生から、抗日運動としての五・四運動の歴史的意味について学ぶことができた。

その後、日本では満洲事変と言われているが、1931年9月18日の日本軍がおこした中国では正式に「九・一八事変」と言われる日本軍による侵略・加害の事実は否定できない歴史の事実であるが、問題は侵略戦争と言わずに日本では「自衛戦争」と言うことを当然視して今日に至っていることである。1932年1月8日の天皇の勅語が「自衛」と書き、日本国民の認識に大きな影響を与えている。満洲事変と呼ぶ日本の新聞に、「自衛」の必要が是認され、「関東軍(かんとうぐん)ノ将兵(しょうへい)ハ果断(かだん)神速(しんそく) 寡克(くわよ)ク衆(しゅう)ヲ制(せい)シ・・・」と天皇自身が関東軍に勅語を下賜していることを高く評価し、報道しているのである。

天皇による「自衛」戦争を当然視する表現は、その後、「支那事変」についての政府を始め、マスコミも自明のように、大きな見出しで、「帝国自衛の決意を宣明 戦争止むなき行動 けふ政府から重大聲明」と書く始末であった(大阪朝日新聞の夕刊。1937年7月28日、参照)。

【2】

以上のような歴史観に基づく対中国侵略戦争について、「日中戦争の発火点―盧溝橋事件80年」と題して、「朝日新聞」が、2017年6月25日(日)に一面に詳しく報道している。

日中戦争の発火点と位置づけられている盧溝橋事件80年の年であることから、同紙は第一面の最初に盧溝橋事件について囲み欄で説明している。次の通りである。

「1937年7月7日、北京郊外の盧溝橋で夜間演習中の日本軍が実弾射撃音を聞いたことをきっかけに、近くの中国軍と戦闘になった事件。日中全面戦争の発端となった。日本軍は1900年の義和団事件(当時の中国の民衆が列強の進出に抗した排外運動のひとつ)のあと、天津に駐屯。36年から盧溝橋近くに部隊を駐留させていた。・・・」。

なお、右の一面の記事には、対中国戦争に対して不拡大方針が崩れ去ったこと、中国側では、内戦を停止し、抗日に変わったこと、忘れられた戦争として依然として日本人の学びの不十分さなどが警告されている。要一読を。

Contents NO.170
特集 「日中戦争」 中国侵略戦争80年 西川重則/「日中戦争の発火点―盧溝橋事件80年」(朝日新聞6・25)/抗日戦争(北京週報2・4)/石井部隊による最初の犠牲者たち 川村一之/「慰安婦」問題 韓国3カ年計画/国連報告者勧告/希望のたね基金/「慰安婦」記録登録/韓国国家人権委員会


市民会議ニュース 2017.5.26 NO.169  (2017.5.27更新)

「教育勅語」問題  「教育勅語」がもたらした侵略の歴史

「教育勅語」論議に欠けるアジアの視点
〜 侵略・加害の歴史を繰り返すことのない認識の共有を 〜

西川 重則 (市民会議共同代表)


■衆参両院は「教育勅語・軍人勅諭」の失効を決議

戦後72年の2017年の現状を直視する時、想像できない複雑な諸問題、諸課題が多く見られる。そのひとつが「教育勅語」をめぐる問題である。「教育勅語」と言えば、1890年10月30日に発布され、明治時代のことであり、しかも戦後1948年6月19日、衆参両院で「教育勅語・軍人勅諭」など失効決議されており、その後、表面では何ら問題にされなかった。

従って、今年大阪の森友学園で、「教育勅語」が問題にされるきっかけを作らなければマスコミも何ら問題にすることはなかったはずである。ところが、月日の経過と共に問題は深刻になり、毎日のように国会で事柄が複雑化し、衆議院法務委員会では午前9時から始まり、夕方の5時過ぎまで与野党の賛否両論が見られ、ずっと傍聴している私にとって解決の道は未だ見えにくいと思わざるを得ない、説明も明白にできないというのが正確なところである。

■安倍内閣に「教育勅語」容認の動き

いったい何が問題なのか。
マスコミも毎日のように報道しているが、たとえば稲田現防衛大臣が、「教育勅語の精神、取り戻すべきだ」という見出しで詳しく述べているが、だからと言って納得できる質問ではない(2017年3月9日「朝日新聞」参照)。「朝日新聞」の「社説」も「教育勅語肯定 稲田大臣の資質を問う」といった具合である(同年3月10日、参照)。それどころか「オピニオン&フォーラム」で、「稲田防衛相に閣僚の資質ない」という「読者の声」が見られる(同年3月16日、参照)。

ともあれ、「教育勅語」に対して、戦後衆参両院が取り上げる必要がないということを断言し、公的に確認した歴史的事実があるにもかかわらず、「教育勅語」について、「説明を避ける内閣」という大きな見出しが見られる状態であり、「教材で使用認める閣議決定」という同様の大きな見出しが見られ、更に「判断基準 文科相明示せず」と記される状態である(同年4月4日、「朝日新聞」、参照)。

■「教育勅語」復活に反対を!

本来「教育勅語」を教育に用いることは許されないことが公的に決められたのに、なぜ戦後72年の今日、「教育勅語」問題がマスコミに毎日のように報道されるのか。私の率直な考えを言えば、読者の声にも見られるが、戦後史を根本的に総括する見解があれば、日本国憲法下における国民主権・基本的人権を享有している主権者・有権者が自らの立場を表明し、1890年の10月30日に発布された「教育勅語」に対して断固反対し、NO!を公言すべきである。

読者の声に見られるように、「教育勅語を教育に用いてはだめ」(同年3月19日「朝日新聞」、参照)であって、森友学園での「教育勅語」を活用させる教育の背景・要因について徹底的に問題視する必要がある。
戦後教育が再び戦前の歴史・伝統・文化に逆流している厳しい戦後史を総括し、天皇制・国家神道体制に対する私たちの個の尊厳に結び付く憲法政治の復活を政府に申し入れ、「教育勅語」そのものがもたらした侵略・加害の歴史を繰り返すことのない認識の共有を求める課題・運動を展開すべきことを述べて終わりたい。

Contents NO.169
特集 「教育勅語」問題 西川重則/「教育勅語」と植村正久 川村一之/「教育勅語」排除決議等/第一回「慰安婦」博物館会議/台湾の陳蓮花さん死去/日本がユネスコ分担金再留保/韓国挺身隊訴訟で賠償判決/新国立公文書館建設へ/強制動員研究集会報告集/「慰安婦」強制文書

市民会議ニュース 2017.3.1 NO.168  (2017.3.4更新)

「慰安婦」問題

日韓「慰安婦」合意は事実上破たん
「河野談話」を基礎に調査を再開せよ


〜 アジア太平洋地域の軍「慰安所」の実態解明を 〜

「慰安婦」問題に関する日韓合意から一年。玉虫色の「合意」は「最終的かつ不可逆的」解決からはほど遠く、むしろ「慰安婦」問題に混迷をもたらしました。日本政府は約束した10億円を拠出したことで、あとは韓国政府が「平和の碑(少女像)」を撤去するという約束を果たすべきだという姿勢です。これでは被害者にとって、いくら日本政府が「(慰安婦問題の)責任を痛感している」(岸田外相の発言)としたところで、額面通りに受け入れるのは難しいでしょう。こと「慰安婦」問題に関しては、日韓だけの問題ではありません。昨年11月に来日したアジア諸国の被害者は異口同音に日韓「合意」を批判、日本政府に対し正義の謝罪と賠償を求めました。私たちは日韓「合意」の欠陥は「慰安婦」問題の真相究明が閉ざされることにあると考えています。日韓「合意」は「河野談話」を再確認せず、最終的解決を確認したことで、「慰安婦」問題の調査も終了だと宣言したに等しいものです。日韓「合意」が事実上破たんした現在、私たちは、日本政府に「河野談話」を基礎に国内を含め、アジア太平洋地域の旧日本軍「慰安所」の実態を解明すべく、調査を再開することを求めます。そして、アジア太平洋諸国の人々との包括的な解決に進むことを望みます。


■日韓「合意」後、国会論議は停滞

日韓「慰安婦」合意後、国会で「河野談話」(1993年8月4日)が語られたのは2件しかありません。国会では「河野談話」に関する議論が事実上封じられています。しかも安倍首相は「河野談話」について、「そこでは、強制性については事実上認めていない、こちら側は。韓国側とのやりとりの中でそうなのでありますが。河野洋平官房長官がいわば記者会見の中でそれを事実上お認めになった」(2014年10月3日 衆議院予算委員会)と述べており、「河野談話」を事実上修正しています。岸田外相は日韓「合意」の場(2015年12月28日)で「軍の関与」を認めましたが、それは「河野談話」をなぞっただけでした。その後も日本の杉山外務審議官は国連の場で、「慰安婦」を「強制連行」した事実はなかったし、「20万人」という数字も裏付けがなく、「性奴隷」の表現は事実に反すると述べ、国連機関による勧告の認識そのものを否定しました(2016年2月16日)。しかし軍「慰安所」制度は「軍の関与」というものではなく、従来の公娼・私娼制度を利用し、旧陸海軍が新たに創設した制度であり、「慰安婦」徴用は軍命であったことが調査で明らかになっています。


■「慰安婦」被害記録のユネスコ「世界の記憶」遺産化に支援を

ユネスコの「世界の記憶」遺産に「慰安婦」被害記録を登録しようとする運動が始まっています。昨年の5月31日、ユネスコは8か国・地域の関係する14団体が共同申請した旧日本軍「慰安婦」記録2744件の申請を受理しました。ユネスコの国際諮問委員会は申請された記録を審査し、2017年10月頃に審査結果を発表するとしています。これに対し、日本政府はユネスコ分担金の支出を凍結するという暴挙に出ました。しかし、日本政府が申請した記憶遺産に悪影響が及ぶことから昨年末には最終的に支払いましたが、気に入らない申請があるからと言って、このような登録妨害行為を行うべきではありません。


■初の世界「慰安婦」博物館会議、4月に開催

世界各国に設立された日本軍「慰安婦」被害を伝える博物館が一堂に会する第1回 日本軍「慰安婦」博物館会議が4月1日、東京で開催されることになりました。参加する博物館は韓国、日本、中国、フィリピン、台湾に設立された9館です。


Contents NO.168
日韓「合意」は破たん・「慰安所」調査の再開を/第193通常国会で国会要請/アジアの視点に立った謝罪を 西川重則/「長生炭鉱水没事故」と向き合う 内岡貞雄/台湾「慰安婦」博物館開館/日韓「合意」1周年声明/新刊紹介/抗日戦争「14年」/強制動員研究集会/日本軍「慰安婦」博物館会議

第193通常国会で全国会議員に要請 2017年1月20日 (2017.1.22更新)


〜 戦争被害の公的調査を憲法施行70周年の年に〜


市民会議は第193通常国会が召集された1月20日、憲法施行70年を迎えるにあたって、主権在民、平和主義、国際連帯を基調にした憲法政治を実現するよう衆参両院全国会議員に要望しました。そのうえで、先の大戦を反省し、歴史の事実を調査する「恒久平和調査局」を国立国会図書館に設置するよう要請しました。


【要請文】

国会議員の皆さまへ             2017年1月20日

戦争被害の公的調査を 〜憲法施行70周年の年に〜

日本国憲法施行から70年を迎える2017年の第193回国会(常会)の開会に当たり、国会議員の皆様に、日本国憲法の指し示す主権在民・平和主義・国際連帯主義に基づく、本来の憲法政治の実現に努力され、日本とアジア諸国との平和と友好を進めるため、戦争被害の公的調査を行うことを提案いたします。

■芦田均氏、戦争は「数千万の人命を犠牲」

今年の通常国会は報道によれば、「共謀罪」と「天皇退位」、それに「憲法改正」が焦点になるとされています。これら3つの事柄は国会での真剣な議論が必要であり、国会は有権者が納得できる結論を導く責任があります。ここで考えていただきたいのは芦田元総理の言葉です。
安倍晋三総理は1月1日、年頭所感で「日本国憲法施行70年」に言及し、芦田均元総理の衆議院帝国憲法改正案委員会委員長報告(1946年8月24日)を引用しました。芦田氏は安倍総理が引用した「歴史未曽有の敗戦」を語った後、「改正憲法の最大の特色は、大胆率直に戦争の放棄を宣言したことであります」と述べました。続いて「我々は此の理想の旗を掲げて全世界に呼掛けんとするものであります」と宣言しています。しかし安倍総理は芦田委員長の後の言葉を省略し、「新たな国づくりを本格的に始動します」とむしろ改憲をにおわせる文言で締めくくりました。芦田氏の言葉を噛みしめるならば、「数千万の人命を犧牲とした大戦争」(芦田)の惨禍を公的に調査し、日本がアジア諸国の人々に与えた「苦難の歴史」を明らかにすることが日本国憲法の指し示す平和への道ではないでしょうか。
私たちは「慰安婦」問題を始め、アジア諸国に与えた「苦難の歴史」を直視することによって戦争被害の公的調査を求めてきました。戦後70年を超えた今日においても私たちは「戦争被害の公的調査」にこだわります。

■「恒久平和調査局」を国会図書館に

今年は「日本国憲法施行70年」と同時に「国会法施行70年」でもあります。その国会法は第130条で「国会に国立国会図書館を置く」と定めました。その国立国会図書館法は前文で「憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」と謳っています。日本国憲法施行70年を迎える今日こそ、国立国会図書館の使命を再認識し、戦争被害を公的に調査する恒久平和調査局を国会図書館に設置していただくよう要望する次第です。